〜 シナリオ作業総括 〜

 どうも。アマゾンさんのランキングで、今もって恋華が善戦してるあたり、「もしかして店頭では買いづらいのか」と疑問に感じている寺山です。

 挨拶でも触れた通り、恋華におけるメイン、テーマイベントのプロットは、開発スタッフが中心となって完成させたものです。これはゲームとしての色を統一し、意図したメッセージがプレイヤーに劣化なく伝わるゲームに仕上げるためにも、この部分はライターさん任せでなく我々制作スタッフがおさえておく必要があるためです。私が中心となったのは、プロジェクトリーダーである私がスムーズに各シナリオの方向性を舵取りするために他なりません。

 ただ、寺山は日本史好きではありますが、どちらかと言えば戦国好きの人間で、思想入り乱れる幕末は、そこまで詳しくはありませんでした。ですからプロジェクトリーダーとなってからは、毎日が幕末のお勉強でしたね。それこそ、思想史から何から朱子学にまで遡って調べました。じゃあ、なぜ本作は史実一辺倒じゃないんだと疑問に感じられるでしょうが、そこが実に難しい問題なのです。

 単純に資料を元にして歴史を追うというスタイルでは、歴史の不明な部分を創作して繋ぎあわせる楽しさはあっても、それ以上のものはありません。我々は歴史資料を編纂しているわけでも、教育ソフトを制作してるわけでもなく、ゲームをつくっているわけで、つくり手に面白さが感じられないゲームに買い手が面白さを感じるだろうかという思いが我々にはありました。そもそも女隊士(主人公)という虚構を話に放り込んだ以上、その主人公と史実を媒介する創作、改変があってしかるべきではないでしょうか。

 だからといって史実をおろそかにしては、新選組という題材をとりあげた意味がありませんので、史実と虚構のバランスをとりながら、主人公という不確定要素を史実に結びつけるためのストーリーづくりに苦心しました。数ある歴史的事実に、いかにして主人公を関わらせるか。それは今回のプロット作成における醍醐味でもあり、難関でもありました。

 そうしてできあがったプロットを、今回シナリオをご依頼した館山緑さんにお渡しして執筆していただきました。プロット完成に手間取り、執筆期間がかなり短くなったにも関わらず、館山さんは、こちらが期待した以上のクオリティでシナリオをあげてくださいました(しかもデートイベントはプロットが作成できず、“お任せ”での発注となったにも関わらず…)。どうしても納得いくエピローグが思い浮かばなかった土方に、あの素敵なお話を提供してくださったのも、他ならぬ館山さんです。

 最終的には、館山さんから納品されたシナリオを、さらにこちらで数ヶ月かけて加筆修正しました。この作業を経て、それぞれのキャラが一貫した確固たるテーマを持つに至り、シリアスやギャグといった調子配分が確定します。その上で、私がメインのダイジェスト版、経過コメント、キャラとの会話を執筆して、ようやく全シナリオアップとなりました。

 会話部分はシナリオというほどのものではありませんが、メインやテーマとの兼ね合いもあり、一番最後に執筆せざるを得ませんでした。結局執筆に許された時間が一週間を切る時間との勝負になってしまい、予定していた半分以下のセリフ数となってしまったことが悔やまれます(当初は親密度に応じて会話を変更させようなどと考えてたのですが……)。

 個人的に書きやすかったキャラは原田と永倉のコンビで、無理のない流れの中であれば、二人の会話は積極的に加筆していきました(今後某所で、私が原田のことを“エリート”と表現した発言を目にされることがあるかもしれませんが、あれは容姿端麗で腕が立ち、おまけに頭もそう悪くなかったという点を踏まえてのもので、決して原田が下級武士の出自で奇行の目立つ男であったことを無視したものではありません)。逆に斎藤は普段無口であるがゆえに、何を話させたらいいものか悩みました。サブでありながら、最後の最後まで登場する島田も会話のネタが尽きて困りましたね。

 もっとイベントが欲しかったという声が寄せられたことに関しては、制作責任者として申し訳ない思いで一杯です。ですが、ゲームの中に収められたものが、制作期間を限界まで引き延ばしてつくり上げた精一杯のものであることも、ご理解いただければ幸いです。シナリオに関しては、機会があればまた話をしてみたいと思いますが、今回のお話はこれにて終了です。

2005年2月21日 ディレクター 寺山 宗宏