〜 大石鍬次郎 〜

 恋華サイトがしょぼいのは、すべて私がデザインしてるからです。デザイナーがみな忙しそうだったもんで……。おみやげにしても私がデザインした壁紙を配布するのもなんですので、第一弾は、ああいう企画者っぽいものになりました。つまらないもので、すみません。

 どうも。UKのフジヤマライスが恋しい、大阪は堺市生まれの寺山です。

 今回は初めてのキャラ語りということになりますが、メインキャラに関してはエンターブレイン様から発売される公式ビジュアルファンブックをご覧いただくとして(笑)、まずはサブキャラから語ってみたいと思います。そうなると、ともかくこのキャラは外せないだろうということで、第一回目はあの「大石鍬次郎」について、語らせていただきます(他のサブキャラは次回にまとめて語ります)。

 大石というキャラに対する私の感想は、発売前に限れば「イヤな役を全部押し付けちゃって、可哀想なことしたなぁ」でした。発売後は、もうそんなこと一切思わなくなりましたけどね。まさか、あんなウケ方をするとは……。

 大石鍬次郎の“初期設定”は次のようなものでした。

【大石鍬次郎の初期設定】
無口な剣客タイプの男。武断的な人物。池田屋の際に出撃しなかったという山南を軽んじ、軟弱な思想を臆面もなく口にする伊東、藤堂も気に食わなかった男として設定。「みんな仲良く」的な考えをもつ伊東らに比べれば、まだ討幕を論じる西郷、大久保に親近感を感じるほど、体のすみずみにまで「武」が染み付いている。坂本は伊東の分離(新選組の弱腰策)を加速させた張本人として位置付けており、毛嫌いしている。近江屋では見廻組にさきがけて坂本と中岡の襲撃を成功させる。

上記のような初期設定が、シナリオ制作を続けていくうち、最終的に次のような設定へと変化しました。

【大石鍬次郎の最終設定】
暗殺を主とした任務につくことで「人斬り鍬次郎」と恐れられた。居合抜きの達人でかなりの剣客だが、とにかく「死」に対して異常なほどの興味を持っており、相手を斬り果たした後も死体をなぶるなど奇行が目立つ。沖田と異なり、「斬り合い」でなく「死」そのものを常に意識していたため相手を倒すことに手段は選ばない。基本的に与えられた任務を忠実にこなすが、もっともな理由をつけては人を斬るため、土方でさえ扱いに困った。必要がなければ一切何も語らず、人を食ったような笑みを絶やさない不気味な男(話したら話したで結構饒舌→ただし多分に慇懃無礼)。色男ではあるが、妖しさはそれ以上。

 はじめは、単なる慇懃無礼で武断的な男でした。あくまで規律を重んじるがゆえに立場の定まらない伊東や、敵方と通じる才谷を付けねらう感じでしたね。その設定をちょこちょこといじり、更に納品されたシナリオを改変した展開に合わせていじった結果、ああいう妙なキャラクターができあがりました。かなりセリフも増やしましたが、信長の話はさすがに蛇足だったかもしれません。「何青っちょろいこと書いてんだ、俺」と少し恥ずかしくなりました(笑)

 どなたかパチンコの快感はお金儲けじゃなく、お金を“する”ことにあるとおっしゃってましたが、大石の剣による命のやり取りとはまさにそういうことで、相手の死を味わい愉しむことの裏には自分の死に対する渇望があったりするわけです。最高の刺激を味わわせてくれる相手が大石にとって最高の友人なのです。

 非常(非情)に卑劣な手段で殺戮を愉しむ一方で、鮮やかに、かつ刺激的に自分を殺してくれる人物の出現を心待ちにしてもいるわけですね。変な野郎です。

 大石、沖田は一見、二人とも斬り合い好きという共通点を持っているように見えますが、沖田が斬り合いそのものに執着していたのに対し、大石は相手が「死」に向かう過程を愉しむがための斬り合いを好んだという点で、大きく趣が異なっています。大石が銃を嫌うのは、相手の死を直に感じとることができないという、その一点に尽きます。

 設定の改変にともない、声の感じ、口調にも気を配らなければということで、大石ボイス収録時の声合わせは、幾分他のキャラよりも時間をかけました(ちなみに普段の寺山は、大抵声優さんがイメージしたままの声で一発OKを出すタイプです)。

寺山
「大石はこう、もっとけだるい感じで……あ、いやニヒルに…う〜ん」

加藤木さん
「ここの『ひゅ〜』は口笛ですか?」

寺山
「あっ、そこはもう口で言っちゃってください。『ひゅ〜』って」

 そんな感じのやり取りが私と、大石役の加藤木さんの間で交わされてました。考えてみると大石は声合わせに一番時間をかけたキャラかもしれません(そうは言っても、結局は5分程度の時間ですが…)。

 本当に今回の音声収録ディレクションほど疲れた収録はありませんでした。マルニスタジオ様のエンジニアの方々のご協力あって、何とか乗り越えることができたようなものです(他の会社は分かりませんが、うちの場合はゲームをディレクションした人間が音声収録のディレクションも担当します。ゆえに収録期間中、社内での作業が一時滞ってしまいますが、この辺り、別の人間に丸投げするわけにもいかず、もどかしい限りです)。

 半ば個人的な思いつきで大石の扱いを大きくしたもので、「えっ、大石単体でイベグラ用意すんの?マジ?」と、この企画の原案を出した代表の川村から突っ込まれたりもしました。ただ、メイン油小路における、あの近藤に刀を投げつけられるシーンは大石の見せ場のようにも見えますが、制作意図としては、手柄といえど素直に賞賛できない近藤の怒りを表現したかったという点の方が重要でした。結果的に大石一人の見せ場になってしまったようにも思えてしまいますが(笑)

 大石は、あらゆる悪事の元凶としてしまったので、恋華のサブキャラにおいて一番のキーパーソンと言っても過言ではないでしょう。伊東を斬り、藤堂を斬り、才谷を斬る一方で、中村に斬られ、藤堂に斬られ、斎藤に斬られと、実に忙しいキャラですね。ですが、大石がどのような理念で人を斬ろうが、実は大石が新選組の隊士であることに重要な意味があったりします。

 本作は新選組を中心に描いているため、見た目には敵方である薩摩、長州を悪し様に描いているかのように見えるかもしれません。ですが、ひとたび見方を変えれば、そもそも新選組だって清廉潔白じゃないんだぞ、と。悪役大石鍬次郎が新選組隊士であるということの裏には、そんなメッセージが隠されています。この時代に生きる全ての人間それぞれに、それこそ名もなき雑兵にも貫く信念があり、各々が各々の信念を貫いて戦っていたということは忘れてはならないと思います。恋華の物語で暗躍した大久保だって、彼の求める理想と信念があってこその、あの行動であったわけです。

 視点をどこに置くかによって幕末の物語はがらりと様変わりします。所詮このゲームは「新選組」の立場から見たものであり、主人公が土佐、長州、薩摩のいずれかに属していたならば、その時は新選組が悪し様に(少なくとも、そう見えるように)描かれていたでしょう。そんなこともあって、あくまでゲーム内の瑣末なことですが、あれだけ悪行を重ねた大石が「新選組である」ということが重要になってくるのではないでしょうか。

 『形は尊氏なれど、心は楠公』

 悲壮な決意をもって京へ攻め上った、長州藩士たちや、他藩の倒幕派勢力にも、いつか光をあてるようなお仕事ができれば幸いです。


2005年2月27日 ディレクター 寺山 宗宏