〜 本作総括 〜

 どうも。メジャーとマイナーの区切りがどこにあるのか、さっぱり見当がつかない寺山です。明日はついに『恋華の宴』が九段下で開催される日ですね。我々、恋華開発陣も何事もなければ九段下へ向かう予定です。

 『幕末恋華・新選組』は、D3・パブリッシャー様のお力を借り、昨年の暮れに晴れて世に出すことができました。川村の思いつきで企画が立ち上げられてから開発完了に至るまで、時には笑い、時には喧嘩し、時には必死に釣竿を振り続けながら制作に励んだ我々には、とても感慨深い作品となりました。

 大学を卒業し、この世界に入ってはや10年。とある会社に同期で入社した連中と有限会社ブリッジ(現 株式会社ブリッジ)を興してから数えても、5年の月日が流れました。ここへ至るまでは、本当に色んなことがありましたね。

 だからこそインターネット上で本作が語られる際に、うちの会社の名前が出ていただけで「ブリッジの存在が認識されている!」と、書き込み内容に関わらず、嬉しく感じられたものです。例え、けなされていたとしてもゲーム制作会社としての弊社を一人でも多くの方に知っていただけるのは、本当にありがたいことですから。

 本作は新選組をメインテーマにしたゲームであるのですが、世間一般には普遍的イメージであり、既に記号化された感のある「山南脱走」のエピソードは影も形もない一方で、恋愛対象であるはずの近藤勇に史実通り妻がいたりと、どこまでが史実で、どこからが虚構なのかと混乱された方も数多くいらっしゃることと思います。ですが、恋華制作における要はまさにそこにありました。「歴史年表をもとに史実を追っただけのストーリーなんて作る方も面白くない。あくまでゲームとして面白くする(成立させる)ためにも史実を生かす虚構も埋め込んでいくべきだ」という考え方です。まあ、考え方としては至極当たり前のことなんですが、いざ実行してみると、これがもう大変で大変で(笑)

 ちなみに恋華の開発中、寺山は新選組系時代小説を読むことも、例の大河ドラマを見ることもしませんでした。特にそれらについて否定的だったり、意味不明な対抗心を燃やしていたわけでもなく、単純に寺山がそれらのものに感化されてしまうことを避けるためでした。「燃えよ剣」すら未読な寺山が新選組の企画を進めるのであれば、せっかくなら、そういったものの後追いではなく、この年になって初めて深く接することとなった新選組という幕末動乱期の徒花集団に、いったい何を感じたのかというところを大事にした方がいいと判断したわけです。例え新選組作品におけるタブーを犯す危険があろうとも、です。

 何事にも一辺倒でないスタンスを保ちつつ、ゲーム的バランス感覚をもって新選組という題材を描こうと苦心した末に完成した作品が『幕末恋華・新選組』です。それでも、その結果として、一部のユーザー様に、恋愛面や、歴史描写の面で物足りなさを感じさせてしまったことは、今後の課題として真摯に受け止めたいと思います。万人を納得させることなど無理かもしれませんが、その努力を怠ってしまえば、その結果は我々、制作者自身に跳ね返ってくるに違いありませんから。


2005年7月9日 ディレクター 寺山 宗宏