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『天壌無窮』が出来るまで…

2008.02.04

 寒い日が続きますが、皆さん風邪などひかれていませんでしょうか? 先月の『恋華の宴』に参加したスタッフは、私を除いた全員が翌日、発熱・頭痛に苦しんだそうです。やっぱりとても寒かったし…しかも開場まで結構外で待ったのも原因なのかもしれませんね。皆さんも体調には気をつけて下さいませ。

 さて、今回は『幕末恋華・花柳剣士伝』のOP曲である『天壌無窮』が出来るまで…と銘打って、制作期間の事なんかをゆるく書いてみます。まとめきれてない事もあって大変読みづらい上に面白みもない文章だと思いますが、どうかご容赦下さい。と、その前にひとつお詫びを…。

 『幕末恋華・花柳剣士伝』本編のEDムービー内において、ED曲名の表記が間違っておりました。既にご存知かと思いますが、正しくは『願ひ華』です。このような形で大変恐縮ですが、改めてお詫び申し上げます。本当に申し訳御座いませんでした。

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○ 寺山Dからのオーダー

 制作にあたり寺山Dから頂いた指示は「前作の『恋華ren-ka』のイメージを残して…」の一言でした。ま、想像通りのストレートなオーダーに、私は何の不安も疑問も感じませんでした。登場人物の多くがお亡くなりになってしまう前作に比べ、「花柳」ではその大半が生存したまま物語が終わると聞いていたので、もうそれだけで随分イメージ付けが楽だと思ったんです。しかも前作とは違いOP/EDがそれぞれ別の曲というのも、私にとっては楽になる!…ハズだったんですけどね。世の中そんなに甘くなかったです。ちなみに『恋華ren-ka』の時は『野生の証明』という邦画の主題歌みたいなのにして下さい!…と既存曲名指しなオーダーをブリッジの某代表から貰ったんですが、思いっきりスルーしました。勿論私なりの理由があっての行動ですが、それでも指示を軽く無視する外注(注:2004年当時)なんて、今考えると結構イヤですね。その後も寺山Dとは顔を合わせる度に曲の方向性について意見の交換を続けたお陰で、イメージ構築が大変楽になりました。

○ 制作その1~作曲~

 その当時それなりに立て込んだスケジュールで作業を抱えていた事もあり、スイッチを切り替えるためにも、まっさらな頭で前作の曲を聴きなおす事から始めました。デモの段階からメロの変更も無く、すんなりと完成した『恋華ren-ka』は、私にとっては優等生的な「いい子ちゃん」。イメージを残すとは言ってもあまりにも近寄りすぎるのも危険だし、離れすぎてオーダーを無視する訳にもいきません。今回一番の課題になるのは、この『恋華ren-ka』との距離の保ち方でした。色々と情報を整理して自分なりにまとめた結果…

「少しの希望があり、前に進む力強さもある、ちょっと切ない曲」

言葉にすると微妙ですが、こんな感じでいこうと決めました。早速宮野さんの唄キーを確認して、そこからピアノで作曲作業…王道パターンにのっとり、サビからメロを口ずさみながらコードを当てて…Bメロ→Aメロとさかのぼって制作しました。この段階で思いついた言葉をはめ込んで、収まりが良かったり気に入ったモノはメモ書きして、後の作詞作業のベースとしました。「少しの希望」を出すために、ある程度リズムのしっかりした力強い曲をイメージしながら作業を進めましたが、気が付くと『恋華ren-ka』になってたりして…正直本当にきつかったです。「あれ? 途中までは違ってたのになぁ…(汗)」なんて事ばかりで、没になった「曲みたいなモノ」は軽く二桁に及びました。

 皆さんにもそれぞれ「この歌は良い!」っていう基準があると思います。勿論それは私にもあって…個人的に拘って大事にしているのは「歌いやすさ=覚えやすさ」だったりします。理想として「三回聞いてそれなりに覚えられるような」メロディーが、私の中にある「正解」です。その基準に基づき、余計な音符を省き、急激な上昇・下降に注意しながら、自然に流れてリスナーの耳に届くように…何度も歌いながら制作を進めた結果、完成したのが現在の『天壌無窮』です。「ある程度の勢い」を出すため細かい音符並びになった部分もありますが、その分サビの「壊れるほど~」やサビ終わりの「強く~」は、大きくゆったり目に歌って貰う事でより強く印象付ける事が出来たと思います。

○ 制作その2~作詞~

 作曲データをオーダーと一緒にアレンジャーさんに預けて、その後すぐに作詞を開始しました。世界観を図るために寺山Dから「キーワード」なんかも頂いたんですが、予想通り作曲の倍以上の時間を掛けてしまい、大きく作業予定を圧迫してしまいました。

 『恋華ren-ka』の詞は、「新撰組」という組織を私なりにイメージして書いたものです。勿論所々「個人」を連想させる言葉は出てきますが、それでもそのバックにはいつも「新撰組」という大きな影が存在してました。差別化を図るためにも、その大きく広い視点とは正反対に、「花柳」では狭く絞り込んで…完全なる「個人視点」で作詞を進めました。様々な思想や理念を持ち寄ってその形をなす「花柳館」には、良し悪しに関わらず「新撰組」のようなある程度の統一感は感じられなかったのも、その理由のひとつです。そしてやはり大きく違うところは「死」のイメージの有無。ストーリー上お亡くなりになるキャラはいるものの、それでも殆ど意識しないようにしました。

「逢えない人だけを想い、真っ直ぐに…」

OP/ED共に「花柳」の作詞イメージの基本部分はこんな感じになります。空を見上げただ一人、もう逢えない人への想いを歌う…とても哀しい「恋の歌」です。

「壊れるほど抱きしめて…」

本当に抱きしめたいのは「誓い」ではなく、他でもない、大切な想い人。抜けるような青空を覆いつくす程の、この叶わぬ願いを、僅かな希望と共に捧げる…。個人的には、こんな情景やイメージを持って描いた詞です。EDと大きく違うのは、何ていうか…気持ちの方向が「上か下か」という点で、静かに降り積もるようなEDに対して湧き上がるように「上」に向かっていく気持ちを、このOPでは出したかった訳です。勿論この辺の解釈は、聞き手の皆さんにお任せしたい部分もありますから、あくまで私個人のイメージとして捉えて貰えると嬉しいです。

 大切な言葉ほど真っ先に浮かんでくる事が多く、歌いだしの「さらば~」やサビ中「壊れるほど~」「この空を染めて~」等は早い段階でメロに乗せる事が出来ました。そして「幕末恋華」の「華」は、やっぱりどこかに使いたくて、より印象に残るようにサビ終わりに近い部分に配置しました。私にとってこの「華」という言葉は、「想い」や「心」の象徴みたいな部分もあって…そういう意味ではとても重くて大切な言葉です。歌いだしの「さらば~」は、早い段階からメロに乗せていましたが、実は最後まで使うかどうか、正直とても悩みました。私の年代的な問題なんですが、この歌いだしといえば真っ先に思い浮かぶ、某宇宙戦艦の主題歌のイメージがどうしても激しく強くて…。(笑)でも、最初から「別れ」をはっきり主張したかったので、「今回だけ」と言い訳のような理由をつけて採用しました。EDも同様ですが、サビに並ぶくらいこの歌いだしは重要で大切な部分だと思っています。

 通常作詞の段階で曲名も一緒に決めるんですが、ホントに時間も余裕もなくて…やっと「これだ!」と思って決めたモノが、実は某地上波アニメのED曲名とモロかぶりだった時は正直死にたくなりました。曲名だけではなく歌い手さんも同じだったので「もうだめ、無理っす」と泣きながらムービー担当のしんちんさんを巻き込んで、深夜の会社で辞書やら書籍を引っ掻き回したのもちょっと痛い思い出です。

○ 制作その3~レコーディング~

 アレンジャーさんからオケが上がってきて、次の作業は宮野さんに覚えてもらう為の資料作りです。カラオケ・ガイドメロ・仮歌・メロ譜・詞…これら一式を用意し提出して初めて、レコーディング当日を迎える事となります。いつもの如く時間もギリギリだったので、私自身が仮歌を歌いました。改めて自分で歌う事で、細かい修正部分も見つけられて一石二鳥…なんて呑気な事を言える場合では無い程、この時期は切羽詰まってました。そして2007年7月末日、都内スタジオにて歌収録となりました。

 皆さんご存知の通り、宮野さんは大変お忙しくて、夜もだいぶ遅い時間から収録が始まりました。前の現場でもびっちり喉を使ってるだろうし、大丈夫だろうか…なんて心配は、ご本人の登場と共に遥か彼方にぶっ飛んでしまいました。とにかく元気です、宮野さん。長身細身の外見からはちょっと想像も出来ない程パワフルな歌声、キチンと自分なりの解釈でこの曲を作り上げてくれたお陰で、収録はすんなり終了しました。「力強さ」と「甘さ」のバランスが、なんというか…聞いているこっちが照れてしまう程絶妙でした。歌でも演技でも同じですが、自分の声や歌声がどんなふうに相手に聞こえているかをキチンと意識出来ていて…そして何より歌が好きな方なんだなぁ…と思いました。自分の仮歌では表現出来なかった部分も、宮野さんのお陰で想像もしなかった新しい形に変化して、ただの文字だった詞に歌い手の気持ちが乗ることで、とてつもない重みを持って一気に「歌」に変化していく過程は、やっぱり何度体験しても感動してしまいます。数ある作業の中でも私が歌曲制作に惹かれる一番の理由は、こういう部分なのかもしれません。

 余談ですが、ブースに入って発声がてら某有名グループの某曲を歌っておられて…こちらが事前に伺っていた歌キーより遥かに上が素晴らしく綺麗に出ていて「あ、何だ、そこまでいけるんだ…言ってくれればなぁ…(笑)」とか大変惜しい気分にもなりましたが、大きな問題も無く収録を終える事が出来ました。さすがに終了時には「出し切りました…(疲)」とお疲れのご様子でしたが、最後まで笑顔の宮野さんは、やっぱりとても男前でした。

○ 総括~振り返って思うこと~

 「前の曲より良いと言われるモノを!」と、力が入っていたのも事実です。そんなふうに意識すればする程『恋華ren-ka』に囚われて身動きが取れなくなって…もがけばもがくほど深みに嵌る悪循環。残り少ない時間と焦り、寺山Dに負けないくらいネガティブ思考の私はすっかり出口を見失い、ピアノの前で固まる日々が何日も続きました。まるで親の仇のように『恋華ren-ka』を敵視するような時期もあり、その歪んだ思考が制作の大きな妨げになっていたと思います。どちらも私にとっては大切な子供達。3年経っているとはいえ、同じ人間の手から、同じ鍵盤の上で生まれた兄弟みたいなこの曲たちを、そんなふうに捉えること自体間違っていたのかもしれません。そう開き直ってからやっと、思うように作業が進んでいきました。曲の構成も作詞の言葉も…『恋華ren-ka』により近くすることで、いろんな邪念みたいなモノが薄れていったように思いました。結局「距離感」の見極めを誤ったしまった訳で…ま、このあたりを突き詰めていくと、もっと深くてドロドロしたいろんなモノが明らかになってしまいそうなので辞めておきます。作詞に関しても、一歩引いてそれなりの客観的視点で書けた『恋華ren-ka』に比べ、この『天壌無窮』は、あまりにも自分の「素」の部分が何の整形もされずダイレクトに反映されているようで…正直今でも胸の奥が痛む事があります。

「前のOPの方がよかった」

そういう意見や感想があるのも認識していますが、どのような内容でも、そんなふうにボールを投げ返してくれるのはとても嬉しく、本当に感謝しています。「好きの反対は嫌いではなく、無関心」。意見も感想も貰えなくなったら、やっぱりとても哀しいです。ただ「花柳剣士伝」の世界と登場人物たちを想いながら書ききったこの曲に、私自身、嘘偽りや後悔は微塵もありません。きっとこの先いつまでも、この曲を聴くたびに鈍い痛みと共に苦しかった時間を思い出すことでしょうが、それでも、私にとって大切な1曲になったのは間違いありません。