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『願ひ華』が出来るまで… その2

2008.03.03

○ 制作その3~レコーディング~

 アレンジャーさんからデータを貰ってすぐに、吉野さんへの資料作りのために仮歌を歌いましたが…ここでちょっと問題発生。事務所さんから事前に頂いていた歌キーにそって制作したんですが、改めて歌ってみると相当キーが高い事に気がつきまして…。男性としては結構歌キーが高い私でも、サビあたりではいっぱいいっぱいになってしまうのは大丈夫なのか?と。一応頂いた内容を確認してみても間違いは無かったので、そのまま仮歌を録り提出させて頂きました。結局現場でキーを下げる事になったんですが、吉野さんには本当に申し訳ないことをしてしまったと後悔しております。

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 収録スタートから歌キーの問題もあって、割とゆっくり時間を掛けながら…いろいろな事を確認しながらの収録となりました。「歌は苦手で…」と仰る吉野さんと、歌詞を一緒に見ながらお互いが持つイメージと表現の方向性について細かく相談させて貰いました。唯一こちらからお願いしたのは歌い方の部分。

「耳元で囁くように…
 一語づつそっと置くようなイメージで」

 これまで「幕末恋華シリーズ」の歌曲を6曲ほど担当させて貰いましたが、個人的に一番難しい曲がこの『願ひ華』だと思っています。その原因の一つがこの歌い方。力を抜きつつピッチを維持して、尚且つ感情を込めて歌うことは、想像するよりずっと難しい事です。ノリや勢いを重視して力任せで何とかなる曲ではないし、その方がよっぽど楽な場合もあります。しかも当日現場で歌キーの変更もあった事で、吉野さんには相当な負担を掛けてしまいました。それでも諦める事なく長い時間マイクの前に立ち続け、自身の持つ歌キー上限近くをキープしながら力を抜き感情を込めて歌うという…とても難しい作業をこなして貰う事で、「下」に向かう静かな気持ちやED曲らしい雰囲気をきっちり表現して頂きました。アレンジの方向性についても、以前から一度はやってみたかった個人的趣味を最優先させて貰いました。その曲の最後の大切なパーツが吉野さんの歌だった訳です。個人的にはサビも好きなんですが、それよりやっぱりこのAメロの歌いだしが一番気に入っています。変に飾ることなく自然にすっと届くような歌い方で、初めてAメロを聞いたとき「そう、これ、これが欲しかったんです!」と心の中で叫び、鳥肌が立ちました。余計な力を極力抑えて一言一言、頬に触れる吐息のように静かにやさしく…この歌い方があってこその、『願ひ華』だと信じています。

 余談ですが、歌曲を制作する際、事前に他の作品での歌を確認したりしない私は、「こんな歌い方の吉野さんは意外」というユーザーさまの声を耳にして、正直とても驚きました。偶然とはいえ、最初にこんなアプローチが出来てよかったな…と。同時にサビに入れ込んだ『恋華ren-ka』のフレーズにも概ね評価を頂いた様で…やっと一安心出来たのが、実はつい最近だったりします。

○ 総括~振り返って思うこと~

 OPよりもこのEDの評価が、正直とても気掛かりでした。『恋華ren-ka』のサビの一部をそのまま入れ込んだことで生じるであろうメリット・デメリットを考えて呆然とする時間が増えたのも事実です。「考えすぎ」と言われればそれまでですが、やっぱりとても心配でした。同時にキチンとユーザーの皆様の事を考えて制作にあたっていただろうか…今でもやっぱり私の中で明確な答えは出ていません。ただとにかく精一杯…私に出来る精一杯を一生懸命頑張ったのは間違いありません。「恋華シリーズの最後」を飾る作品として、そのED曲として…やれる事の全てを注ぎ込みました。正直信じられないくらい苦しい時期もありましたが、今は『願ひ華」のアウトロのように、静かで穏やかな気分です。

 この曲を作った事で改めて実感出来た事がひとつ。作詞・作曲担当の私の仕事は、何も無い所に小さな芽を出す所までで…その後水や肥料や陽の光を与え枝を伸ばし葉を広げ、美しい華を咲かせてくれるのはいつも、歌い手さんやスタッフさんなんだということ。そして完成した曲を聞き好きになってくれて…対価や評価という栄養を与えて更に華を育ててくれるのは、他でもないユーザーの皆様のお陰であるということです。前作発売から3年もの長い間、「期待」という水や陽の光を与え続け、この「恋華」という華を守って育ててくれたのは、やっぱりユーザーの皆様だと実感しています。本当に本当に有り難う御座いました。

 前作発売の時、某時空を越えてしまう有名作品と発売日がモロ被りし「これは結構まずいんじゃ…戦車に竹やりで向かっていくみたい」と個人的に心配した事も、今ではいい笑い話です。「幕末恋華」という大きな看板は、私にはまだ重くて身分不相応な所もありますが、それでもこのお仕事に参加出来て良かったと今では心から思います。そしてこの場を借りて関係者の皆様に心よりお礼申し上げます。本当にいろいろ有り難う御座いました。